価値観
ホスピスナースになった頃いろんな壁にぶち当たりました。
一般病棟でいろんな患者さんを看取ってきましたが、
中には、一人寂しく旅立たれる方もあり、
人が一人亡くなるという大切な人生の過ごし方、送り出し方が、
果たしてこれでいいのだろうか、という気持ちがありました。
ホスピスでは全スタッフが総力を挙げて、
最後の時の過ごし方を守り、お見送りをしていると思い、
転職を決めました。
一般病棟では家族との関わりも薄く、
その人がどんな人生を歩んできたかなど聞く機会もありませんでした。
本人が苦しくても、「治す医療」を最後まで行うことで医療者の役目を果たす、という感じです。
ホスピスは、患者家族と深く関わります。
今思えば、どうしてホスピスしかこういうケアができないのかと思うくらい、
人生の最後の過ごし方をサポートすることは大事であると感じています。
ホスピスは「支える医療」というところでしょうか
もちろん現役で生活している間を充実させて過ごすことは大切です。
日常をサポートしている分野でのお仕事の方は、ぜひ日本を元気にしてほしいです。
寒い夜にガスや電気が使えているのも、寒い中管理をしてくれている人があってのことですし。
人生最後の時は、どんな人にも寂しくないように過ごしてほしい。
願いはそれだけです。
でも、ホスピスに来た頃は色々悩みました。
その一つが「価値観」です
それなりに経験を積んできたので、私なりの「価値観」がありました。
ある本で勉強しているとホスピスナースは自分の価値観を捨てなければならないように記載されていました。
自分が人と同じだとは思っていないですが、
逆に自分のような考えの人もいるのではないか、と思っていました。
ホスピスでは、患者や家族に深く関わる分、患者家族からいろんな話を聴きます。
でも、私自身、あまり人に自分のことを話すのは好きではなく、
グイグイと患者家族に近づくことに抵抗がありました。
そんなに自分のことを話したいと思わない人もいるのではないか、と。
それでも先輩ナースは、その人となりを知るために、話を聞いてくるように言います。
中には、お話し好きの人もいますが、逆に人との距離を置きたいと考える人もいます。
その人に話を聴きに行かなければいけないことがしんどかったです。
するとある先輩ナースに言われました。
「ホスピスではあなたの価値観はいらない」
悩みました。
今までの経験やそこで出来た価値観を捨てることができず。
でも、ようやく今は理解できるようになりました。
「寄り添う」とは、自分の色眼鏡でその人を見ていてはできないんです。
どうしてそう思うようになったのか
なぜそういう性格なのか
何を大事だと思うのか
その人の生きてきた環境で、その人の皮膚に入り込まなければ
本当の思いに近寄ることはできません。
私の普通は、その人にとって普通ではなく
私の不思議は、その人にとっては不思議ではない。
わからないから受け入れないのではなく
わからないけど受け入れる
もちろんその人の全てを解ったということではありません。
人をわかることは難しい。
でも、違うこともすべて受け入れる
まず第一にその人のことを考える、
あなたのことをわかりたいと思う、
そんな人に、そばにいて欲しいと思うのではないかと思うようになりました。
実際今までにいろんな方に出会ってきましたが、
相手を否定せずに受け入れることは
何より距離が近づくということが多くありました。
話をするとき
その人の意識が
「自分」に向いているのか
「相手」に向いているのか
大抵の人はすぐに見抜いてしまいます。
心がここにない人がそばにいても
ただシンドイだけ。
ようやく、自分の価値観をちょっと横に置いておくことができるようになりました。
そして、
私自身が、癌を持つ患者になってみて
私自身を支えたいと思ってくれる人の思いがどれほど救われるか体験しています。
私の心配をしてくれることは申し訳ないと思う一方で
救われています。
明日、入院して手術します。
生き延びたい、という気持ちは、
実はあまりないのですが、
生かされている間、自分の役割を果たせるように
きちんと治療してきたいと思います。
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